Ghostty —— Zigで書かれたターミナルエミュレーターが来た
HashiCorpの共同創業者 Mitchell Hashimoto が開発したターミナルエミュレーター Ghostty を徹底紹介。Zigで書かれたネイティブUI、GPU加速レンダリング、豊富な機能、そして実際の使い心地まで。
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ターミナルエミュレーターというのは、地味なソフトウェアだ。エンジニアが毎日何時間も向き合うくせに、話題になることはほとんどない。そこに突然、開発者コミュニティ全体を巻き込む形で登場したのが Ghostty だった。
作ったのは誰か
Ghostty の作者は Mitchell Hashimoto。Vagrant、Terraform、Vault などを生み出した HashiCorp の共同創業者だ。
HashiCorp は 2012 年に Mitchell と Armon Dadgar がワシントン大学の同期として共同設立した。CEO を約 4 年、CTO を約 5 年務め、その後一般の個人コントリビューターとして 2 年ほど在籍した後、2023 年に退社した。HashiCorp のツール群はクラウドインフラ管理のデファクトスタンダードと言っても過言ではなく、Terraform 単体でも世界中の tech 企業が日常的に使っている。
その人物が次に作ったのが、ターミナルエミュレーター。多くの人が「なぜ?」と思ったはずだ。
なぜターミナルエミュレーターを
Mitchell 自身が書いたリフレクション(2024 年 12 月 26 日付)には、こんなことが書かれている。
2022 年に Zig で遊びたくて、グラフィックスプログラミングを試したくて、ターミナルの理解を深めたくて始めただけだ。リリースするつもりなんてなかった。
Zig という新興言語の習作として始めたプロジェクトが、気がつけばリリースできるクオリティになっていた。既存のターミナルエミュレーターを使いながら「このトレードオフは好きじゃない」「この機能が欲しい」という気持ちが積み重なり、気づいたら本気で作っていたという流れだ。
ちょうど第一子が生まれた直後の時期と重なっていたこともあり、プライベートベータの形で少人数のテスターに限定公開しながら 2 年ほど開発を続け、2024 年 12 月 26 日に v1.0 を MIT ライセンスでパブリックリリースした。
Zigで書かれた意味
Ghostty のコアは libghostty と呼ばれる C-ABI 互換のライブラリで、これが Zig で書かれている。ターミナルエミュレーションの核心部分(テキスト描画、フォント処理、シーケンスのパース)を libghostty が担い、各プラットフォームの GUI はそれを包む形だ。
- macOS :Swift + AppKit/SwiftUI で書かれたネイティブアプリ
- Linux :GTK4 ベースのアプリ
macOS アプリは「ちゃんとした SwiftUI アプリ」として作られている。これは重要な点で、Electron ベースや独自レンダリングではなく、macOS が提供するネイティブの UI コンポーネントをそのまま使う。タブも、スプリットも、メニューバーも、すべてネイティブだ。
レンダリングには macOS では Metal、Linux では OpenGL を使う GPU アクセラレーションを採用している。ベンチマーク上の数字としては Alacritty と同程度のカテゴリにあり、Terminal.app や iTerm2 とは比べ物にならない速さだと公式ドキュメントに明記されている。
主な機能
ゼロコンフィグで動く
インストールしてすぐ、設定なしで使える。Nerd Fonts も最初から対応しているため、Starship などの見た目にこだわったプロンプトも設定不要で正しく表示される。
設定ファイルは ~/.config/ghostty/config に置くシンプルなキーバリュー形式のテキストファイルだ。font-size = 14 のように書くだけで設定が効く。GUIの設定画面はないが、ドキュメントが充実しているうえ、デフォルト値が良いので大抵の用途では触らずに済む。
タブ・ウィンドウ・スプリット
複数ウィンドウ、タブ、水平・垂直のペイン分割をすべてサポートする。Kitty を使ったことがあれば似た感覚で使えるだろう。tmux に頼らなくてもターミナル内で複数のコンテキストを扱いたい人には特に使いやすい。
豊富なテーマ
数百種類のビルトインテーマが同梱されており、ghostty +list-themes コマンドでインタラクティブにプレビューできる。ライト/ダークモードそれぞれに別テーマを設定する機能もある。
macOS ネイティブの統合
macOS ユーザーにとって特に嬉しい機能がいくつかある。
- Quick Look :テキストを 3 本指でタップするか Force Touch することで、macOS の Quick Look が起動し定義の検索などができる
- Secure Keyboard Entry :パスワード入力時に自動検出、または手動で有効化でき、アクティブ時はアニメーションする鍵のアイコンが表示される
- Quick Terminal :ホットキー一発でスライドインするドロップダウンターミナル(Quake スタイル)
- AppleScript / Apple Shortcuts :macOS のオートメーション機能と統合可能
ターミナルアプリ開発者向けの機能
Kitty キーボードプロトコル、Kitty グラフィクスプロトコル、同期レンダリング(Synchronized Rendering)、ライト/ダークモード通知など、モダンなターミナルプロトコルを幅広くサポートしている。Neovim や Zellij など対応アプリを使うと、他のターミナルエミュレーターでは出せない機能が使えるようになる。
バージョン履歴と現状
2024 年 12 月の 1.0 公開以降、活発にアップデートが続いている。
| バージョン | リリース日 | 主なトピック |
|---|---|---|
| 1.0 | 2024/12/26 | 初回パブリックリリース |
| 1.1 | 2025/01/30 | Linux SSD 対応、品質改善 |
| 1.2 | 2025/09/15 | macOS Tahoe 対応、SSH 統合、多数の新機能 |
| 1.3.1 | 2026/03/13 | 最新安定版 |
1.2 では macOS Tahoe(macOS 26)への対応も盛り込まれており、Liquid Glass スタイルへの対応や新しいアイコンも同時に投入されている。
2026 年 5 月現在、最新版は 1.3.1(2026 年 3 月 13 日リリース)だ。
競合との比較
Ghostty がよく比べられるのは iTerm2、Alacritty、Warp の 3 つだ。
iTerm2 はプラグインやセッション管理など 10 年以上育ててきたエコシステムがある。一方でコードベースが重く、スピードでは Ghostty に劣る。
Alacritty は速いが機能を意図的に絞っており、タブもスプリットもない(tmux 前提の設計思想)。Ghostty は Alacritty 並みの速度を持ちながら、iTerm2 が持つような機能も統合している点で差別化している。
Warp は AI 機能やブロックベースの出力管理で話題になったが、ログインが必要でネイティブではなく独自 UI。ターミナルとしての純粋な動作速度でも Ghostty には及ばない。
実際に使ってみて
私自身、Ghostty に乗り換えてから半年以上が経つ。Claude Code を一日中動かす環境として使っているが、体感として最も違いを感じるのは スクロールの滑らかさ だ。ログが高速に流れる場面でも文字が乱れない。
設定をほぼ触らなくてよいのも助かる。フォントだけ自分好みに変えて、あとはデフォルトのままだ。設定項目が少ないからわかりやすいというより、デフォルトが「もうこれでいい」という水準に達しているという感じに近い。
プロジェクト自体は MIT ライセンスで、テレメトリも一切なし。Hack Club という非営利団体の財政スポンサーシップのもとで開発が続いており、オープンソースプロジェクトとして健全な形を保っている。
Vagrant から Terraform まで、開発者の日常を変えてきた Mitchell Hashimoto が、今度はターミナルに手をつけた。「ターミナルエミュレーターは解決済みの問題」と誰もが思っていた領域に、まだ改善の余地があったことを、Ghostty は証明してみせた。
Ghostty 公式サイト :https://ghostty.org
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